医療ミスの被害を受けた患者さんやご遺族にとって、医療訴訟は想像以上の時間と労力を要します。その理想的な解決とは何なのか、医療訴訟の現状を踏まえた上で、今一度見つめ直してみましょう。
医療訴訟の現状を知り、
気持ちを整理する
医療訴訟の新受件数は頃から平成4頃から緩やかな増加傾向にあり、平成12年には793件に上ります。90年代の終わりに発生した横浜市立大学病院の患者取り違え事件や、都立広尾病院の注射器取り違え事件といった重大な医療事故が社会問題化したことも背景にあって、医療訴訟の件数は平成16年に1,089件とピークを迎えました。
その後「医療崩壊」が叫ばれるようになり、訴訟件数は減少に転じたといわれています。

しかし、この数字はあくまでも医療訴訟に至った紛争の件数にすぎません。示談交渉で和解に至った事案を含めると、年間1万件以上の医事紛争が発生しているという見方もあります。
病院側の過失が大きい場合や、病院側が敗訴した先例があるような場合は、和解によって示談金が支払われて終わることもしばしばですが、そうした事案は裁判所のデータとして残りませんし、公刊物に記載されることもないのです。
医療訴訟における
平均審理期間は約2年

医療訴訟に至ってしまった場合、平均審理期間は約2年とされています。そのうちの半数、約50%は和解という形で解決し、約40%は解決できずに判決へと進んでいきます。取り下げ等を含む「その他」が約10%という傾向にあります。
また、訴訟に拘束されてしまう長い期間と低い勝訴率という現実を踏まえた場合、訴訟を判決まで進めることが原告にとって必ずしもいいことではないケースがあるのも事実です。
医療ミスの被害者やご家族が病院に対する怒りや不信といった感情を抱き、和解という選択肢が見えなくなってしまうのも至極当然です。しかし、裁判に要する長い時間と途方もない労力を無視するべきではありません。今一度、医療訴訟の現状を知り、気持ちを整理することも必要ではないでしょうか。
患者・ご遺族にとって
理想的な解決とは
裁判所が下す判決は、いずれかの主張を認め、もう一方の主張を認めないというものです。つまり、「訴訟」の争点に関しては勝ち負けがはっきりするのです。
もし患者側の主張が認められなければ、基本的には一切の賠償金を受け取ることができず、判決までに要した膨大な時間や労力や費用は何のためだったのか、ということにもなりかねません。
一方、「和解」による解決は勝ち負けではなくお互いが納得できる形で争いを終わらせるということです。裁判の終盤では裁判所が和解案を提示することがありますが、その和解案は想定される判決の内容に基づいてなされるケースが多く、勝訴した場合と同じような条件で和解できることも多いのです。
選択するべきは
「訴訟」か「和解」か
病院側は「敗訴するかもしれない」「不利な判決になるかもしれない」と考え、和解案を受け入れるかもしれません。患者側も同様で、その和解案を受け入れるべきか、それとも判決を待つべきか、慎重に検討する必要があります。
和解が成立した場合、病院側に過失があったかどうか、法的責任があるかどうかを裁判所は必ずしも判断しません。それでも和解に合意するメリットは、敗訴するリスクを避けられること、そして病院側の謝罪を得られる可能性があることです。
極論、仮に判決で勝訴したとしても賠償金を得られるだけで、裁判所が病院側に謝罪を命じることはできないのです。
そこで考えるべきは、患者さんやご遺族にとって理想的な解決とは何なのか、ということです。裁判で勝ち負けをはっきりさせることも確かに重要ではあります。しかし、もっと大切なのは、お金よりも「気持ちを整理すること」とも考えられるのです。
医療ミスによって被った取り返しのつかない身体的・精神的損害は、医療訴訟によって癒されるわけではありません。しかし、争いの終わらせ方によって気持ちに区切りをつけることはできるはずです。
前述のとおり、医療訴訟の結果として和解を受け入れるケースが半数に上っているという事実が、それを証明しています。
医療裁判で
大切なこととは?
医療裁判の行方は、良い弁護士に巡り合えるかどうかで大きく変わります。
医療事故は被害者の人生において経験したことがないような出来事であり、高度な専門性を含むことがほとんどですが、それは弁護士にとっても同様です。そこで弁護士は訴訟の争点について医学文献や過去の判例を徹底的に読み込み、知識の修得に努めなければなりません。
そして被害者である患者さんやご遺族の気持ちを汲んで、ともに裁判を戦い抜くという気概も必要です。知識や経験が豊富で、被害者に寄り添ってくれる弁護士を選ぶこと、それが医療裁判において非常に大切なことだといえるでしょう。

