医療ミスの被害者の多くは病院に対する怒りや不信の感情を抱えており、それが訴訟の原動力になっているケースすらあります。そうなると、なかなか示談による和解を受け入れられません。しかし、病院側との示談は妥協=負けだと考えていいでしょうか。
「病院側との示談=負け」ではない
医療ミスで紛争が発生した場合、その解決方法には大きく「裁判」と「裁判外」の2つがあります。裁判外では話し合いが成立しなければ解決しませんが、裁判では話し合いが決裂しても最終的には判決によって紛争は終了を迎えます。
裁判は鑑定が入ることなどによって専門的かつ公正な結論が得られますが、時間も労力も依頼者の想像以上に要するケースがほとんどで、医療過誤事案であればなおさらです。医療ミスに対する国民の関心が高まっている昨今、場合によってはマスコミの報道対象となって世間の目に晒される可能性もあります。
そう考えた場合、早期解決の可能性も高い裁判外の手続きによって話し合いでの解決を目指し、示談の方向に向かうことが望ましいともいえるのです。
病院側と示談するのは負けを認めること、そう考える方も少なくありません。しかし、前述のとおり裁判には相当な時間も労力も費やすこと、示談なら相手側とも納得して解決できることを踏まえると、示談は決して負けることを意味しないのです。
病院側との示談交渉の
進め方
通常は弁護士が相手側の病院に受任通知を送って損害賠償を請求します。この時点で過失の有無に対する主張が決定的に異なるのであれば話し合いによる解決は困難ですが、示談交渉の余地がある場合は次のような話し合いになるケースがあります。
- 当事者同士
- 相手方の弁護士と患者側
- 双方の弁護士同士
- 患者側弁護士と病院担当者
これらは、必ずしも段階的に進むわけではなく、例えば「相手方の弁護士と患者側」で和解・解決に至ることもあります。
もし患者さんやご家族が金銭的な解決だけではなく、医療事故の再発防止を医療機関に望みたいといった場合には、示談交渉の中で説明会の開催を要求したり、医師に文書による質問を行ったりすることも可能です。
示談交渉の具体的な
話し合いのケース
- 当事者同士の話し合い
まずは患者さんやご家族と医師が話し合いを行うことが多いようです。話し合いの進め方や合意できなかった場合の対応について、あらかじめ弁護士に相談してアドバイスを受けておいたほうがいいでしょう。もし合意できれば話し合いはそこで終了し、弁護士が合意文書を作成します。 - 相手方の弁護士と患者側の話し合い
当事者同士の話し合いで合意に至らなかった場合は、相手側の弁護士と話し合いを行うことになります。そこでも合意できなければ患者側にも弁護士が介入し、以降は患者さんやご家族が話し合いの場に出向くことは基本的になくなります。患者側が弁護士に調査を依頼するのはこのタイミングが多く、協力医による診療記録の検討などが行われます。 - 双方の弁護士同士の話し合い
示談交渉の最終段階として、双方の弁護士同士が話し合いを行います。そこでも合意が成立しなければ、裁判もしくは調停、医療ADR(エーディーアール:裁判外紛争解決手続きのこと)といった手段に切り替えていきます。 - 患者側弁護士と病院担当者の話し合い
患者さんやご家族側だけが弁護士を立て、病院側は担当者立ててを示談に向けた交渉を進めることもあります。上記3つのケース同様、弁護士と病院担当者の話し合により、交渉が進む場合も考えられるでしょう。
医療ミスにおいて「示談交渉」が
成立しなかった場合
調停も話し合いによって合意を目指すものですが、示談交渉とは違って裁判所での手続きとなります。一般市民から選ばれた調停委員が裁判官とともに解決にあたる仕組みで、医療ミスの事案では調停委員の少なくとも1人に医師が選任されるケースが多いようです。
調停は手続きが比較的簡単で、費用も低額という特徴があります。また、調停は示談交渉を経ずに申立てることも可能で、調停委員との話で理解が深まり合意に至る場合もあります。
一方、ADRは各地の弁護士会が独自に設置している手続きで、基本的に裁判所は関与しません。代理人の経験が豊富な弁護士を患者側、病院側それぞれが仲裁人の候補者として選任し、過失の有無という責任判定に終始せず双方の話し合いで早期解決を目指すものです。
この方法も示談交渉を経ずに申立てることができます。
過失に対する主張が
互いに異なる場合
患者側と病院側とで主張が決定的に違う場合、調停やADRでは話し合いが決裂するケースがほとんどです。
裁判になった場合には、一般的には双方の主張や診療経過、争点の整理を経て当事者(患者さんやご家族、医師、医療スタッフなど)の証人尋問が展開され、専門的な知見を要する場合は鑑定が実施されます。裁判の終盤には和解も試みられますが、裁判所が提示する和解案は判決内容を前提にしている場合が多いようです。

