くも膜下出血を発症した男性が低酸素脳症に陥り、亡くなってしまった事案です。その背景には、スタッフの誰もが生体情報モニタのアラーム設定確認を怠っていたという信じがたいヒューマンエラーが存在していたのです。
経過観察ミスにより、低酸素脳症に陥り亡くなった
事例の【要点】
くも膜下出血で集中治療室に入院した男性には統合失調症の既往があり、上限量の鎮静剤が投与されていました。その薬剤には呼吸抑制の副作用があるにもかかわらず、あろうことか生体情報モニタのアラームがオフになったまま、スタッフの誰もがそれに気づいていなかったのです。
急変した男性は低酸素脳症に陥り、数年後に亡くなってしまいました。本事案には6,038万円の賠償命令が下されています。
- 賠償金:6,038万130円
東京地裁の判決ポイント
- 統合失調症の既往があるくも膜下出血の患者に上限量の鎮静剤を投与
- 副作用の呼吸抑制で低酸素脳症をきたし、数年後に死亡
- モニタのアラームがオフになっていたことが注意義務違反に該当
低酸素脳症/死亡における
解決までの詳細
- 原告男性は2015年3月17日、自宅で後頚部痛や嘔吐などをきたし、某学校法人が開設する病院を受診。
- 検査の結果、原告男性はくも膜下出血の診断を受け、同日18時頃に同院のSICU(外科系集中治療室)に入院。
- 原告男性には統合失調症の既往があったため、刺激を与えないように暗室管理とされ、降圧剤のほか鎮静剤が静脈注射で投与されました。
- 原告のSPO2(動脈血酸素飽和度)や呼吸数、血圧、脈拍等はベッドサイドモニタ及びナースステーションのセントラルモニタに表示されるはずでしたが、同院のスタッフはベッドサイドモニタのSPO2、APNEA(無呼吸)、心拍数、血圧のアラーム設定を切っています。そして呼吸数と脈拍は初めからオフのままでした。
- 原告には鎮静剤の継続投与がなされていましたが、同年3月24日、1種類を除いて静脈注射による管理を中止し、経口投与に切り替えています。なお、ベッドサイドモニタのアラームについては心拍数が同日1時22分、血圧が21時からオンに切り替えられています。
- 翌25日、鎮静剤の静脈注射による投与は中止され、昼から食事を開始、16時21分にSICUからSHCU(外科系高度治療室)に転室しました。
- 同日から29日まで、原告には毎日20時30分頃から21時10分頃にかけて上限量の鎮静剤が経口投与されています。
- 同月30日、原告は遅くとも深夜0時には入眠していましたが、以降に無呼吸または頻呼吸の状態が複数回出現、3時頃に一度覚醒してスタッフと会話するも再び入眠し、4時30分頃からSPO2が低下していきます。
- 4時54分頃、スタッフが点滴交換のため訪室して間もなく原告は呼吸停止をきたし、顔面蒼白であること等を確認した5時2分頃から心肺蘇生措置が開始されました。
- 同16分に心拍再開、同36分に自発呼吸が再開しましたが、原告はすでに低酸素脳症をきたしており、重度の意識障害(遷延性意識障害)、四肢固縮といった重篤な後遺障害が残ってしまいました。原告はその後2019年10月1日、多臓器不全によって死亡しています。
原告側の主張と動き
遺族らは、医療スタッフに生体情報モニタのアラーム設定ミスと見落とし、鎮静剤の不適切な投与といった過失があったほか、生体情報モニタを製造・販売した会社に仕様設計上の欠陥ないし不法行為における過失、指示・警告上の欠陥ないし過失があったと主張し、損害賠償請求を求めて提訴しました。
原告男性はくも膜下出血によってSICU、SHCUに入院していたのですから、その重症度から再出血のリスクも高かったと考えられます。再出血の防止には十分な鎮静が必要ですが、原告には統合失調症の既往があり、不穏な言動が見られたことから上限量の鎮静剤が投与されていたこと自体はやむを得ないでしょう。
裁判所の考えと判決
薬剤には副作用として呼吸抑制があり、裁判所は医療スタッフに対し、原告の血圧動向だけではなく呼吸状態も監視すべき注意義務があったと指摘しました。さらに、そもそもこのベッドサイドモニタには1日2回、アラーム設定画面で内容を確認することが求められていました。
担当医からも「SPO2が90%未満の場合はドクターコール」という指示が出ており、医療スタッフは原告の急変に備えてアラームを設定すると同時に設定が維持されているか継続的に確認すべき注意義務があったとも指摘されています。
しかし、同院のスタッフは原告が転室する際に医師の指示どおりアラームを設定したものの、電子カルテの転室設定で再びアラームがオフになったことを見過ごしていました。
また、前述のとおり1日2回のアラーム設定確認が求められていたにもかかわらず、25日の転室時にアラームがオフになってから30日に原告が急変するまでの5日間にわたり、誰もアラームがオフになっていることに気づかなかったのです。
裁判所はスタッフに注意義務を怠ったことに対する過失を指摘し、結果として遺族の損害賠償請求は認められています。

