当時41歳の女性が脳動脈瘤の手術中にくも膜下出血を発症、脳死状態に陥った後に亡くなってしまった事案です。一審では遺族側の訴えが棄却されましたが、高裁ではその判決が翻され医師の注意義務違反が認められています。
術中にくも膜下出血を発症し、脳死状態後に亡くなった事例の【要点】
脳動脈瘤の破裂によって軽度のくも膜下出血を発症した患者が、脳血管内手術を受けるも手術中の脳動脈瘤再破裂による重篤なくも膜下出血を起こした事案です。患者は脳死状態に陥り、12日後に亡くなりました。
遺族らは医療過誤であるとして訴訟を起こし、一審では棄却されたものの高裁で逆転、6,700万円の賠償命令が下されています。
- 賠償金:6,7224,701円
広島高裁の判決ポイント
- 脳血管内手術の際中に脳動脈瘤が再破裂、脳死状態を経て死亡
- 説明に納得できず医療過誤の可能性を考えた遺族らが提訴
- 一審判決を覆し執刀医に「医療水準にもとる注意義務違反」があったと判断
くも膜下出血/脳死における解決までの詳細
- 女性は2013年6月19日、広島赤十字・原爆病院において脳動脈瘤破裂による軽度のくも膜下出血と診断。
- 軽度のくも膜下出血と判断された同日に、同院でカテーテルによる血管内手術を受けました。
- 手術は脳動脈瘤の中に血液が流れ込まないようにコイルを詰めて再破裂を予防するものですが、本事案では手術中に脳動脈瘤が再び破裂して重篤なくも膜下出血を発症。
- 女性は脳死状態に陥ったまま回復することなく12日後に亡くなってしまいました。
- 遺族らはこの結果に納得できずに担当医に説明を求めるも、医療過誤の可能性を考えて同病院に質問状を送付、その後の訴訟に至っています。
原告側の主張と動き
争点の1つ目は、手術中に脳動脈瘤が破裂した場合の救命に関する説明義務違反の有無です。
担当医は手術説明書面を用いて合併症の説明を行っていますが、手術中に脳動脈瘤が破裂した場合でも、例外的な状況を除き開頭手術で救命できるような趣旨の説明をしていたことがわかりました。実際は開頭手術で救命できないことを説明する義務があったにもかかわらず、担当医はこれを怠ったということです。
ただ、この説明義務違反に関しては死亡に相当する因果関係があるとまではいえず、本手術を選択するか否かに係る自己決定権の侵害にとどまるとされました。
争点の2つ目は、手術の困難さについての説明義務違反です。本事案の脳動脈瘤は形状や部位からコイル塞栓術の難易度は高いと考えられ、その旨を説明していなかったことが認められました。これも前述と同じく、自己決定権の侵害にあたるとされています。
争点の3つ目は、別の手術方法が存在したことです。脳動脈瘤の治療には本事案で実施されたコイル塞栓術のほか、開頭して脳の隙間から脳動脈瘤を露出させてクリップをかける開頭クリッピング術があります。もし前述1つ目、2つ目の説明がしっかりなされていれば、原告がコイル塞栓術ではなくクリッピング術を選択した可能性があったと仮定するのが妥当でしょう。
裁判所の考えと判決
本事案では脳血管内攣縮(れんしゅく:出血の刺激によって脳の動脈が過度に収縮すること)を合併しており、クリッピング術は脳梗塞を併発する可能性が高いと判断されていたため、クリッピング術を選択する可能性は低かったと考えられます。したがって、この部分も同様に自己決定権の侵害に留まります。
しかし、重要な争点は手術の手技そのものでした。まず前提として、本事案の脳動脈瘤は2つの葉状の構成成分を有するタイプであり、通常のコイル塞栓術に用いるシングルカテーテルではなく、相応の技術を要するダブルカテーテルを用いるものでした。
これは前述の争点の2つ目に通じるものです。そして脳動脈瘤の破裂の原因はコイルの穿孔によるものですが、本来はコイルが血管を傷つけたり破ったりしないように、執刀医が脳動脈瘤の内側にフレームを作ります。
本事案ではそのプロセスで適切なフレームが作られておらず、フレームの形成が不十分な部分からコイルが穿孔して破裂したと推測することが合理的と判断されました。
本事案は一審で遺族側の訴えが棄却されたにもかかわらず、控訴後の高裁では執刀医に「医療水準にもとる注意義務違反があった」とされ、死亡に相当の因果関係があると認められたのです。

