数ある民事訴訟の中でも、とりわけ難しいとされる医療訴訟。医学という専門性の高さが高いハードルになっているという見方もできますが、その実態はどうなのでしょうか。医療訴訟の流れや証拠の確保という点から検証してみましょう。
「医療訴訟」が
難しいとされる理由
医療行為が問題とされる医療訴訟は民事事件であり、法的な観点では通常の民事訴訟と変わらず、単なる訴訟類型のひとつに過ぎません。しかし、医療訴訟は医学という専門性の高い領域ゆえに審理も長期化しやすく、民事訴訟の中でも特に難しい訴訟類型だといわれています。
医療訴訟には病院側の協力と
医療の知識が必須
まず、裁判所も被害者も医療に関する知識を十分に持ち合わせているわけではないという問題があります。
事案の問題点を把握するだけでも相当な時間と労力を要します。さらに、訴訟において重要な証拠となる診療録などが病院側に保管されているため、その提出や情報開示は相手方の協力が得られない限り多大な時間がかかってしまうのです。
そしてもうひとつ、医療に限らず一般的に訴訟には「鑑定」というプロセスがあります。鑑定とは、専門性の高い分野の訴訟において、特別な学識経験を持つ第三者に意見を求める手続きを指します。医療訴訟ではまさに専門性の高い医学という分野が問題となるため、医療の専門家である医師の意見を求めなければ適切な判断は困難です。
そのため、医療訴訟においては鑑定を行わなければならない場面が一般的な民事訴訟によりはるかに多くなるのです。
鑑定の方法には単独鑑定(1人の鑑定人が意見を述べる)、共同鑑定(複数の鑑定人が共同で1つの意見を述べる)、アンケート式鑑定、カンファレンス鑑定などがあり、事案に適した方法を選択します。通常は単独書面鑑定が中心になりますが、いずれにしても相応の時間を要します。
このように医療訴訟には“協力と知識”という高いハードルがあり、難しいといわれる大きな理由となっています。
医療訴訟の
具体的な流れと期間
まず、そもそも事案が医療ミスといえるかどうかを判断するための材料を収集しなければなりません。基本的には病院の診療録(カルテ)や検査記録、看護記録、検査報告書、レントゲン写真などが該当しますが、そういった記録やデータの類を取得するには「証拠保全」と「任意開示」の2パターンがあります。
証拠保全は裁判所に申立てを行い、裁判官らが相手先の病院を訪問して診療録などの提示を求め検証する手続きです。
また、任意開示は直接相手先の病院に対して診療録などの開示を求める手続きです。どちらの方法を選択すべきかは、事案によって慎重に判断する必要があります。
記録類の収集が完了したら、次は第三者である医師(協力医)に対して過失の有無や因果関係について意見や医学的知見を求めます。これを医療調査といい、本事案が医療ミスに相当するか否かの鑑別や法的手続きの見通しを立てることが目的です。後の裁判に使用する証拠資料を作成するためにも法的な視点は不可欠であり、必ず弁護士も関与しなければなりません。
このようなプロセスを経て訴訟や調停、交渉などの手続きに進んでいきますが、最高裁判所が発表している医療関係訴訟事件の平均審理期間は約2~3年とされています。証拠の収集に要する期間を含めると約3~4年になり、医療訴訟は解決までに相当な時間を要することがわかります。
医療訴訟で重要な
「証拠の確保」とは
医療訴訟における「証拠の確保」は、訴訟前における重要な手続きです。
医療ミスを疑ったとしても、診療経過に関する記録やデータはすべて病院に保管されているので、患者側は見ることすらできません。そのため、まずは証拠になり得る診療録などを入手する必要があります。さらに、病院側が診療録を改ざんしたり廃棄したりするのも防がなくてはなりません。前述の証拠保全は患者側にとって非常に大切な手続きなのです。
そして、証拠保全は病院側にとっても重要な手続きです。診療録などを提出することは病院側の証拠も保全されることを意味し、改ざんの疑いも避けられます。したがって、病院側に後ろめたいことがない限り、証拠保全は不利益ということではないと考えられます。

